2025.03.31 京都府内のイベント・観光・体験
万博で活躍した日本画家が大集結/福田美術館・嵯峨嵐山文華館「万博・日本画繚乱 ー北斎、大観、そして翠石ー」
観光客で賑わう嵐山。渡月橋からほど近くにある福田美術館と嵯峨嵐山文華館では、連携して企画展を開催します。かつて万博で2連続金牌受賞という偉業を成し遂げた大橋翠石をはじめ、万博に出品した日本画家にスポットライトを当てて作品を展示。企画について、両館の副館長である竹本理子さんと、学芸課長の岡田秀之さんにお話を伺いました。
世界中の方々が楽しめる日本画コレクションを展示
―― 今回は2館合同での開催とのことで、それぞれの美術館についてお伺いしたいと思います。まず、福田美術館について教えてください。
福田美術館は2019年の10月に開館した私立美術館です。嵐山は世界中からたくさんの方々が訪れる場所。そこに美術館をつくることで、日本文化を知っていただきたいという想いから創設されました。オーナーの福田はこの近くで生まれ育ちましたので、文化事業を行うことで地元に恩返しをしたいという想いもあったと聞いています。
そうした経緯で創設された美術館ですので、嵐山に訪れる世界中の方々が喜ぶものを、という視点で作品を収集をしています。オーナーが気に入ったアーティストの作品だけを収集しているわけではないということです。これは、個人コレクションでありながら他の私立美術館とは性質が少し違うところかと思います。
福田美術館が所蔵する約2000点のうち、約98パーセントは日本画です。京都にお越しになる方がご覧になるということで、竹内栖鳳や上村松園といった京都の芸術家の作品を軸に収集をはじめ、そこから同時代に活躍した人や影響を受けた人へと広げていきました。
また、海外の方もお楽しみいただけるようにと浮世絵も集めています。そうして広げていくうちに、江戸時代から現代に至るまでの日本画が揃ってきまして、日本美術史を満遍なく綺麗になぞるようなコレクションになっています。
―― 嵯峨嵐山文華館はどのような美術館なのでしょうか。
もともとは百人一首専門のミュージアムだった「小倉百人一首殿堂 時雨殿」を、2018年に福田が運営を引き受けて「嵯峨嵐山文華館」としてリニュアルオープンしました。運営が共同になるということで、百人一首だけでなく、福田美術館の日本画コレクションとも連携していこうということになりまして、現在は百人一首の常設展に加えて年4回の企画展を実施しています。
また、競技かるたを題材にした漫画「ちはやふる」に登場したご縁もあって、「ちはやふる小倉山杯」という競技かるたの大会も毎年開催しています。
嵯峨嵐山文華館には120畳の広々とした畳ギャラリーがあり、靴を脱いでゆっくり見ていただける和の建築となっています。
嵯峨嵐山文華館
万博で活躍した日本画家たちに再びスポットライトを当てる
―― 今回の企画展のポイントを教えてください。
万博はこれまで世界各国で開催されていますが、多くの日本画家も作品を出品し、活躍してきました。今回は、過去の万博に出品された画家の作品を展示しようという企画をしています。
彼らは国内でも大変活躍していて、国の代表として選ばれて万博に作品を出品し、海外でも高く評価されました。しかし残念ながら、今では忘れられてしまっている画家もいます。
今回は、あえてそうした画家にもスポットを当てることで、当時活躍していた日本画家のすばらしさを改めて知っていただけたらと思っています。
両館の副館長 竹本理子さん 学芸課長 岡田秀之さん
―― どの年代の万博ですか?
1867年のパリ万博から1904年のセントルイス万博までです。また、万博ではないですが、1910年の日英博覧会に出品した画家の作品も展示します。
つまり明治から大正、昭和にかけて活躍した画家たちですね。現在でも有名な画家でいいますと、横山大観や川合玉堂、京都画壇ですと、竹内栖鳳や上村松園といった画家の作品を展示します。
―― 展示の見所を教えてください。
大橋翠石の作品にはぜひ注目していただきたいです。
大橋翠石は「虎の翠石」という異名をとるほど虎の絵がとても有名で、1900年のパリ万博では日本人画家として唯一金牌(金メダル)を受賞しています。さらに4年後のセントルイス万博でも金牌。オリンピックで2連続金メダルのようなもので、当時大変評価されていた画家なんです。
大橋翠石 《猛虎之図》 福田美術館蔵
写実的で迫力のある虎の作品をたくさん描いているのですが、作品によって描き方が全然違いますので、比べて見ていただきたいなと思います。また虎以外にもいろいろな動物の絵を描いていますので、それらも楽しんでいただきたいです。
―― そんな素晴らしい功績を残した画家がいたのですね。
関西のお金持ちの間では「大橋翠石の虎の絵を持っていないと潜りだ」と言われるぐらい、有名な方だったんです。それがいつの間にか忘れ去られてしまって......。
翠石は、非常にドラマティックな生涯を送ってこられた方でもあります。岐阜県出身の翠石は幼いころから絵画が好きで、15歳から本格的に絵画の勉強を始めますが、20代のうちに両親を亡くしてしまいます。父の納骨のために訪れた京都で円山応挙の虎の絵を見つけ、「これだ!」と思って日夜絵の勉強に励んだそうです。さらに見世物興行で実物の虎を見る機会にも恵まれたことで独自の画風を確立していき、36歳という若さで万博金牌受賞という快挙を成し遂げます。そういったエピソードも含めて楽しんでいただければと思います。
―― 過去の万博に展示された作品が見られるのでしょうか?
今回は万博に出品された作品そのものではなく、出品した画家のいろいろな作品を展示する、という企画にしています。
万博に出品された作品は、「山水」や「猛虎」というように画題が分かっているものもありますので、その画題と近しい作品を展示するとともに、あえて毛色の違う作品も展示しています。両者を展示することで、万博に想いを馳せつつ、その画家がどういう作品を作ってきたのか、というのがきちんと伝わるようにしています。
―― 福田美術館と嵯峨嵐山文華館では展示内容にどのような違いがありますか?
両館とも、万博に出品された画家たちの作品を満遍なく見ていただけるようにしています。
いずれかだけでも楽しめる構成にはしていますが、両館の作品を見ることで画家たちの作品をコンプリートでき、より深く味わえるようになっていますので、ぜひどちらも見ていただきたいです。
SDGsを1000年前から実践してきた日本画の魅力を世界へ
―― 万博に向けての意気込みをお聞かせください。
今でも海外からたくさんの方にお越しいただいていますが、日本画についてはほとんど知られていないのが現状です。有名なのは葛飾北斎の富士山の浮世絵くらいではないでしょうか。それでも、予備知識なく当館を訪れて、「全然知らなかったけどよかった」と言ってくださる方が増えてきているようにも感じています。
ですからこれを機に、世界の万博で活躍していた日本人画家がいたんだぞ、ということをわかっていただけたら嬉しいですし、京都の歴史、そして日本の歴史を知ってもらいたいと思います。
―― 海外の人に伝えたい日本画の魅力とは何でしょうか?
日本画というのは世界的に見ても特殊な分野です。使われている紙や絵の具はすべて天然のもので、自然に還る素材が使われています。たとえば、貝や石を摺ってつくった絵具や、動物のゼラチンを使った膠(にかわ)などですね。そういった説明を海外の方にすると、とても驚かれます。
しかも、その良い素材は一部の上流階級だけでなく、多くの人々が身近に触れてきました。京都の商家では屏風や掛け軸を持っていますが、天然の素材が使われていて、季節によってかけ替えるなど自然を大事にした飾り方をします。そうした楽しむゆとりを持っているというのは、とても豊かで素敵な文化だと思いませんか。
今は「SDGs」という言葉が出てきていますが、日本はもっと以前、それこそ1000年前から天然のものを使ってずっと描いてきているんです。日本って昔からそうだったんだ、というのを改めて気づくきっかけにもなるといいなと思います。
―― 日本人にとっても気づきの多いものとなりそうです。
そうですね。大阪や奈良の美術館では、今回の万博にあわせて国宝展が開催されますが、そうした大規模展覧会には入らないような画家や作品に焦点をあてて見せていきたいです。
日本人の方にとっても知らない画家が多く出てきますが、「知らないから見ない」ではなく、こんなすごい画家がいたのかと興味を持ってもらえたら嬉しいです。
企画展・美術館情報
- 展覧会名
- 万博・日本画繚乱 ー北斎、大観、そして翠石ー
- 会期
- 2025年7月19日(土)~ 9月29日(月)
- 休館日
- 展示替え期間
- 開館時間
- 午前10時 ~ 午後5時(入館は午後4時30分まで)
- 所在地
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福田美術館
京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16
嵯峨嵐山文華館
京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町11 - ホームページ
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福田美術館
https://fukuda-art-museum.jp/
嵯峨嵐山文華館
https://www.samac.jp/