2025.06.20 京都府内のイベント・観光・体験
55年前の大阪万博から見えてくるもの/京都鉄道博物館「1970年 あの頃の交通展」

京都鉄道博物館では、万博開催を記念して、1970年の大阪万博にフォーカスした特別展を開催。当時の万博の映像を放映するほか、京阪神エリアを中心とした1970年代の交通の資料を展示します。企画について、学芸員の島崇さんと総務企画課の久保都さんにお話を伺いました。
1970年の大阪万博に想いを馳せる
―― 京都鉄道博物館について教えてください。
京都鉄道博物館は、梅小路蒸気機関車館をリニューアルする形で平成28年に開業し、今年で9周年を迎えます。「地域と歩む鉄道文化拠点」として、鉄道の歴史や安全、技術を楽しく学べる、日本最大級の鉄道博物館です。
収蔵している車両は54両と国内最多です。そのうち蒸気機関車は23両あり、うち20両が重要文化財に指定されています。さらに、その中の8両は今でも動かせる状態で保存しています。
展示車両には、世界初の昼夜両用の寝台特急である583系電車「月光」や、日本初の量産型蒸気機関車である230形233号機など、日本の鉄道史に欠かせない貴重な車両が揃っています。また、全長約1kmの日本最大の鉄道ジオラマも見どころです。
―― 今回の企画展が生まれた経緯を教えてください。
大阪・関西万博の開催に合わせて、何か関連展示ができないかと考えたのがきっかけです。万博と聞いて思い浮かぶのは、やはり1970年の大阪万博。当時、実際に経験した方から「とても楽しかった」という話をよく聞きます。そこで、今回は1970年の大阪万博を切り口にした企画展を行うことにしました。
―― どのような展示内容ですか?
今回の企画展では、1970年代とはどのような時代だったのか、そして交通はどういった発展をしたのかを、1970年の大阪万博を通じて体感いただくことをテーマにしています。
会場では、当時の万博の映像を物流博物館からお借りして上映するとともに、万博開催時に鉄道がどのように輸送を行っていたのかについて紹介しています。
当館は、2014年に閉館した大阪市の交通科学博物館の資料を引き継いでおり、鉄道以外にも、飛行機やバス、自動車など、さまざまな交通に関する資料も収蔵しています。そこで今回は、鉄道だけでなく、1970年代に活躍した交通全般を知ることのできる展示構成にしました。
日本全体で盛り上げた大阪万博
―― 展示の見どころを教えてください。
まず一つは、当時の万博の様子を記録した映像ですね。当時の雰囲気を感じていただければと思っています。
もう一つは、「万博号」のヘッドマークです。これは、万博輸送のために走らせていた臨時列車に取り付けられていたもので、113系電車の先頭に掲げられていました。今は電車全体をラッピングするのが一般的ですが、当時はこうしたヘッドマークを取り付けた列車が活躍していました。
鉄道だけでなく、高速バスも万博のシンボルマークを付けて万博を盛り上げていました。当時は高速道路が開通して、高速バスも活躍していく時代です。バスに万博のステッカーが貼られていたことがわかる写真も展示しています。
展示の最後には、京都ゾーンからお借りした今年の万博に関する資料も展示しています。当館で万博の実物資料を楽しんでいただけるのも、見どころです。
―― 島さんのイチオシ展示はありますか?
万博の記念切符ですね。世界各国のパビリオンイラストが描かれた記念入場券です。こういった機会でないとなかなか紹介することもないので、初めての展示になります。カラフルで可愛いですよね。当時はコレクションする方も多かったようです。
―― 当時の交通事情はどのような状況だったのですか?
そうですね、日本はちょうど高度経済成長期で、インフラの整備が急速に進んだ時代だといえます。1964年の東京オリンピックに合わせて東海道新幹線が開業していますし、自動車も一般層の方が買えるようになってきて、高速道路も発展しています。交通の歴史で見ると、この時代は大きな転換期といえますね。
―― 万博がきっかけで生まれた変化もあるのでしょうか。
あります。たとえば、今もJRの神戸線や京都線などで走っている「新快速」は、大阪万博の輸送がきっかけで誕生しました。
あとは、旅行の需要ですね。万博開催に伴って一気に旅行の需要が高まったのですが、万博が終わるとやはり鉄道利用がぐっと下がってしまうんですよね。なので国鉄としては、どうやってまた旅行をしてもらうか、列車に乗ってもらうかを考えるわけです。そうして生まれたのが、「ディスカバージャパン」という旅行キャンペーンです。
―― その後の旅行キャンペーンのテーマ曲となった郷ひろみさんの「2億4千万の瞳-エキゾチック・ジャパン-」は名曲ですよね。
それまでの旅行というと男性の趣味といったイメージで、個人的に行くというよりは、団体で行くものが一般的でした。また、服装もかっちりとしたものを着るのが一般的だったと思います。
それが、万博以降になると、女性一人でも個人的に行けるようなカジュアルなものに変化していきます。当時のポスターも、活発な女性が旅を楽しむ姿が描かれていて、旅のスタイルの変化がよく伝わってきます。
―― 鉄道だけじゃない、時代背景が見えてきますね。
鉄道や駅、ポスターなどの様々な資料から、1970年代の雰囲気を感じてもらえると思います。なので、おじいちゃん・おばあちゃん、お父さん・お母さん、そして子どもたちの3世代でぜひ一緒にお越しいただきたいですね。展示を見ながら、おじいちゃん・おばあちゃんから当時の万博の話を聞くことで、より楽しんでいただけるといいなと思っています。
世界とつながる特別展示も開催
―― 関連イベントは開催されているのでしょうか。
「おとなの学び講座」として、万博に関するテーマで講座を開催しています。
また、「世界一周環状線弁当」やパフェなど、万博を記念した特別メニューもご用意しています。「世界一周環状線弁当」は、大阪・関西の名物料理と世界各国の名物料理を掛け合わせた、数量限定のお弁当です。食堂車両(ナシ20形)の中でお召し上がりいただけます。
館内ではスタンプラリーも開催しています。1970年の大阪万博で使われていたピクトグラムをスタンプにしているので、館内を巡りながら楽しんでいただきたいです。
―― 海外の鉄道に関する展示もされているそうですね。
はい。台湾とイギリスに関連した特別展示も行っています。
台湾は、1905(明治38)年に台湾台中市に台中駅が開業してから、2025年で120周年を迎えます。これを記念して、台中駅を中心とした「台湾の鉄道」の魅力を写真でご紹介しています。
また、当館は英国国立鉄道博物館と姉妹提携を結んでいます。当館の前身である交通科学博物館・梅小路蒸気機関車館の時代から関係が続いており、今年で25周年を迎えました。展示では、両館のゆかりの資料や姉妹提携の関連資料を紹介しています。
こうした展示を通じて、世界とのつながりも感じていただければと思います。
―― 万博会場での取組もされているのですか?
関西パビリオン内の京都ゾーンに、京都鉄道博物館も出展させていただきました。来場者の皆さまに万博記念硬券を配布したのですが、おかげさまで大変ご好評いただきました。当館でも9周年記念硬券を配布しました。※現在は配布を終了しました。
京都鉄道博物館 提供
また、企画展示室内では、当館が出展した大阪・万博会場の関西パビリオン「京都ゾーン」の様子をパネルや展示品で紹介しています。京瓦「キモノタイル」、アテンダント制服やイメージ映像の放映等をお楽しみいただけます。
京都鉄道博物館 提供
―― 最後に、メッセージをお願いします。
今回の展示を通して、1970年代の交通や時代の雰囲気を感じていただき、それをきっかけに今年の万博にも興味を持ってもらえたら嬉しいです。当時に想いを馳せながら、今年の万博にも足を運んでいただきたいなと思っています。
京都鉄道博物館の見どころ
日本最大級の鉄道博物館には、貴重な資料が保存・展示されているのはもちろん、子どもから大人まで楽しく体験できる仕掛けがたっぷり。写真とともに館内の様子をご紹介します!
入館して最初に通るプロムナードには12両の車両が並び、鉄道の歴史が一目でわかる。本館までは120mあり、駅のホームを歩いている気分。
本館では、寝台特急「月光」をはじめ、車両がずらりと並ぶ様子は圧巻。
踏切や改札機なども設置。子どもたちが体験しながら学ぶことができる。
2階のレストランでは、新幹線が目の前を通る様子を楽しむことができる。今回の企画展の会場の隣にあるので、展示を楽しんだ後はレストランで電車を眺めながらゆっくり食事を楽しみたい。
実際の線路とつながっている線路を利用して現役車両を本館に引き込んでいるのは京都鉄道博物館だけ。全国で活躍する現役の車両を特別展示することもある。北海道の函館からはるばるやって来たこともあるのだとか。
© 2025 Gullane (Thomas) Limited.
重要文化財の扇形車庫にずらりと並ぶ蒸気機関車。中にはなんと原作出版80年を迎えたきかんしゃトーマスも!時々、目をキョロキョロとさせて話してくれる。子どもや海外の人たちにも大人気。(~2026年1月12日(月・祝)まで)
本物の蒸気機関車が牽引する客車に乗車できる、体験展示「SLスチーム号」。往復1kmを走る間、蒸気機関車での旅気分を味わうことができる。
企画展「1970年 あの頃の交通展」
- 会期
- 5月17日~7月13日
- 会場
- 京都鉄道博物館 本館2F 企画展示室
- 内容
- 55年前に開催された万博の様子とともに、1970年頃の京阪神エリアの鉄道を中心とした交通の発展について映像や記念乗車券、ヘッドマークでご紹介します。
- 詳細
- https://www.kyotorailwaymuseum.jp/pdf/koutsuu-1970.pdf
関連展示
特別写真展「台中駅120周年~台湾の鉄道~」
- 会期
- 4月11日~8月3日
- 会場
- 京都鉄道博物館 本館2F キッズパーク前特設会場
収蔵資料展「英国国立鉄道博物館姉妹提携25年のあゆみ」
- 会期
- 4月5日~7月27日
- 会場
- 京都鉄道博物館 本館2F 企画展示室横展示ブース